「フラメンコを天命とする女王--樋口晴美、フラメンコ芸術にひた向きな情熱をかける日本女性--」
1999年5月11日 Informacion紙

フラメンコを天命とする女王
樋口晴美、フラメンコ芸術にひた向きな情熱をかける日本女性
マルコ・アントニオ・ベロ(ヘレス)
INFORMACION紙1999年5月11日(火)

 その真実の姿に迫りたいと思う。常に繊細で時間に正確。そして女性の優しさを失わない。ヒグチハルミ(樋口晴美)は1947年、神奈川に生まれた。フラメンコにかかわっている時に溢れ出る明るさ、その若々しい振る舞いはわれわれを魅了する。

 故郷を離れて15年、経済的安定を捨て、また家族もかの地に残してきた。その多くは語らないが、つらいことだろう。ここにわれわれの世界的芸術の体現者がいる。ここにわれわれが敬意を表さなくてはならない女性がいる。それは、5ペセタを4ペセタと交換することがないほどの事実である。

 好奇心とともに彼女の住まいへと向かう。フステイシア通りの中ほどに位置する借家は、アンダルシアの典型的な中庭パテイオをもち、進歩からはとり残されて見える。ハルミは笑顔で私を出迎えてくれる。人なつこい身振り、いつも変わらぬ優雅な雰囲気がただよう。

 静かな1室に通される。そこは彼女の仕事場であり、毎日の練習の場。アグヘータ(Agujeta)の息子でありアグヘータ・エル・ビエホ(Agujeta El Viejo)の孫であるアントニオ・デ・ロス・サントス・ベルムデス(Antonio de los Santos Bermudez)が訪問している。この唄い手は、ドーニャ(訳注。婦人に対する尊敬の呼び方)ヒグチのフラメンコへの純粋な情熱にあくなき敬意をはらっている。アントニオ・デ・ロス・サントスは、この、すでにアンダルシア中を巡った女性と何度か共演している。アントニオはしばしば即興の通訳となる。彼らはお互いに黙っていてもわかりあっている。

 「私は生まれたのは日本ですが、気持ちの上ではヘレサーナ(ヘレスの女)です。ヘレサーナの魂をもっていると思います」。日本人のフラメンコに対する崇拝の念についてたずねると、ハルミは遠くを見つめるようなおももちでこう語る。「私の国では、怒りの感情を人前で表わすことを良しとしません。フラメンコは私たちにとって、その怒りを表現する方法です。もちろんそれは、腕の動きや体全体を使ってする芸術としての表現ですが」。

 彼女はジプシーと同化し、成功をおさめ、評判を呼んだ。かのエル・トルタ(El Torta)やペリキン・ニーニョ・ヘロ(Periquin Nino Jero)との舞台での共演が、彼女の名前を高めることになった。スペインでの彼女の15年は、「好き」から同化への道のりだった。スペインでのこの15 年、アンダルシア社会は彼女の人徳と才能を認め、自分たちの愛すべき娘として受け入れた。

 その舞台には感服する。芸のもつ魔力のようなものが、彼女の足もとから頭のてっぺんまでを支配している。不思議な気迫、すばらしいコンパス感、そしてしなやかな肉体等々、ほかに比べるものがない。「ドウエンデが、私をフラメンコの世界に引きずりこみました。ドウエンデは常に私の中にあり、前進する力をいつも私に与えてくれます」

 1匹のネコがわれわれの会話に入り込んでくる。部屋を横切り、遠くから女主人を見守りながら、踊り手の靴の横に静かに眠る。名前をミミといい、ハルミの唯一の連れであり、スペイン語でしつけられている。「孤独が大好きです。なぜならそれは、私の瞑想を助けてくれるからです」。たくさんの思い出がある。さまざまな舞台が彼女を大きくしていった。ハルミにとって忘れられないものの一つは、トマテイート(Tomatito)、パンセキート(Pansequito)、アウロラ・バルガス(Aurora Vargas)などと一緒だった、サン・フェルナンドでのペーニャ・カマロン・デ・ラ・イスラのお披露目のフィエスタだ。またカマロンの追悼公演や、ペーニャ・ファニート・ヴィジャール(pena Juanito Villar)での金曜日でのフラメンコも忘れがたいものである。

 「私は幸せ者だと思います。実際、こうして踊り続けてこられたのですから。自分の国を離れての長い年月、好きなことをして生きてこられたのですから」「第3回ヘレスフェステイバルのことは忘れられません」。ハルミは顔を輝かせていう。「ビジャマルタ劇場には何回も足を運びました。毎日楽しくて、いつまでもフィエスタが続けばいいと思いました。街中、まさにフラメンコ一色と化していました」 「私は祖先からヘレス人であったように感じるのです。今また、こんなにもたくさんの日本人と街で出会うようになり、彼らとフラメンコのドウエンデ、その魔力を通してフラメンコへの愛を分かち合えるのは大きな喜びです」

写真説明。ヒグチハルミ(樋口晴美)。唄い手のアントニオ・デ・ロス・サントス
(Antonio de los Santos)とともに。

前のページへ戻る

ページの最上部に戻る